誘導障害の種類と対策は? どんなものがあるの?
2016/02/22
2019/03/13
誘導障害とは聞きなれない言葉ですが、電力線に接近した人や通信線が一定の電荷をおびているときに発生する障害です。電線など電気をおびているものだけでなく、人体でも起こりますので、放置しておくと事故につながることもあるでしょう。
そこで今回は、誘導障害の種類と対策についてご紹介します。誘導障害が発生すると、電流が正常に流れなくなることもあるでしょう。すると、通信障害などが起こる可能性もあります。電気主任技術者の資格取得を考えている方も、ぜひこの記事を読んでみてくださいね。
1.誘導障害とは?
誘導障害とは、電話線や通信線などに電力線が並行して設置されるときに、起こりやすい障害です。電力線とはいわゆる電線のことです。家庭用の電線から高圧電線までいろいろな種類があります。通信線とは、電話線と同じものですが規格が違う線です。インターネットに利用されるので、ここ数年で、ずいぶんと数が増えました。
また、誘導障害は電力線と人体の間でも発生するのです。電力線とこれらの間には、たくわえられる電荷の量、つまり「静電容量」があります。電力線の静電容量が大きいと、電荷に偏りが生じ本来電流が流れていないはずの空間に電流が流れてしまうのです。
その結果、通信障害や感電が起こります。これが、誘導障害の発生原理です。つまり、誘導障害が発生する条件が整ってしまうと、電力線のそばに寄っただけで感電する危険があるということです。どんなに危険なことか想像がつくと思います。
通信障害が発生するとインターネットが使えなくなったり電話が通じなくなったりします。そうなると、日常生活にも大きな支障が出るでしょう。
2.誘導障害の種類は?
この項では、誘導障害の種類についてご紹介します。誘導障害には大きく分けて3つありますが、どのような条件で発生するのでしょうか?
2-1.静電誘導による障害
静電とは、静電気のことです。主に、特別高圧電線直下で起こり、下を通る人が刺激を受けたり付近の回路に異常電流が流れたりするという形で障害が現れます。特に、下を通る方が刺激を受ければ「感電事故」になるでしょう。そのため、高圧電線に必要以上に近づかないように措置がなされています。
2-2.電磁誘導における障害
これは、送電線と通信線の間に相互インダクタンスによって生じる障害です。通常の状態で発生することはめったにありませんが、落雷などの事故発生時や地絡(漏電)が生じた場合に起こります。電力線に流れる大電流が原因で、通信線に電圧が生じる障害であり通信障害の原因になるのです。急にインターネットがつながらなくなるなどの通信障害は電磁誘導が原因で発生することも少なくありません。
2-3.鉄道が原因で発生する障害
鉄道は、交流電源と直流電源を変電所や線路上で切り替えて使っています。ですから、その切り替えが原因で障害が発生することもあるのです。その原因は、電源を切り替えるときに発生する、高周波ノイズです。日本では1925年に初めて鉄道が原因の誘導障害が確認されました。
この誘導障害が発生すると、信号保安システムが重大な影響を受けることがあります。現在は対策が採られていますが、新型車両などを導入する際は万が一に備える必要があるのです。
3.誘導障害の対策は?
どうでしょうか。誘導障害が発生すると、人命の危険や生活に重大な支障が出ることがお分りいただけたと思います。では、誘導障害の対策はどのようなものがあるのでしょうか?この項では障害の種類ごとに対策方法をご紹介していきます。
3-1.静電誘導の対策
静電誘導の対策としては、第一に、地面と送電線をできるだけ遠ざけることです。電力線は、通常電柱の上に張り巡らされています。しかし、高圧電線はどうでしょうか。人家から離れた場所にある鉄塔伝いに通常の電線よりも高いところに張られています。これは、静電誘導を防ぐためなのです。地面との距離が遠ければ静電誘導が発生する確率はぐっと下がるでしょう。
また、このほかにも遮へい物を設けたりする方法も有効です。また、送電線が2系統並んでいるところでは、片方の送電線の相配列を変えることも有効でしょう。さらに、接地といってアースの一種をつけるところもあります。こちらは、送電線に上って作業をする場合などに用いられることもあるのです。
3-2.電磁誘導の対策
電磁誘導の対策も、基本的に静電誘導と変わりません。最も有効なのは送電線と通信線の間隔を開けることです。これが無理な場合は、遮へい線を設けましょう。この遮へい線は伝導率が高く、接地抵抗が小さいものがおすすめです。さらに、通信ケーブルを用いて、避電器を設置する方法もあります。
3-3.鉄道が原因で発生する誘導障害の対策
鉄道が原因で発生する誘導障害は、信号保安システムの整備が中心になってきました。
また、車両側の対策として制御器筐体の接地や遮へい物を利用したりして、誘導障害を防いでいます。しかし、前述したように新型車両を導入した場合は、入念なテストをした上でないと実装しない決まりになっているのです。
4.万が一誘導障害が発生したら?
誘導障害が発生した場合は、送電線から送られてくる電力を一時的に低下させるなどの対策が必要になります。
感電事故などが起きた場合は、速やかにその人を救出しなければ、命にかかわることもあるでしょう。実際、誘導障害が発生した場合、それを解消するまでには長い時間がかかります。そのため、どの電力会社や鉄道会社も発生の予防に力を入れているのです。電気主任技術者の資格を取得すれば、高電圧の送電線付近での作業や、誘導障害の予防の仕事をすることもあるでしょう。
特に、前述したように通信線はインターネットの普及とともに急速に増えていっています。従来の通信線に加えて光ケーブルなども通るようになりました。ですから、電磁誘導などの障害も起きやすくなっている箇所もあるでしょう。まだ予防対策が採られていない場所は、早急に措置をする必要があります。
また、鉄道が原因で事故が発生しないように整備をする専門の業者もあるのです。電気主任技術者の資格を取得すれば、このような職場でも需要があるでしょう。特に、変圧器の管理は大切な仕事になります。
おわりに
今回は誘導障害の種類や対策についてご紹介しました。通常の生活をしている限り、私たちが誘導障害にあうことはあまりありません。ただし、変電所の敷地内などに無断で侵入した場合には、高圧電線に近寄って感電事故にあう可能性もゼロではないのです。変電所は発電所と違い、敷地内に高圧電線が地面に近いところに走っているところもあるでしょう。このような場所は接地することによって誘導障害を防いでいます。しかし、たとえば濡れた傘の先が高圧電線に触れたなどが原因で、誘導障害が発生する可能性があるのです。ですから、立ち入り禁止の場所には絶対に入らないように注意しましょう。
また、いかなる理由があっても電車の通る線路内も立ち入り禁止です。最近は、電車のよい写真を撮るために、立ち入り禁止のところまで入り込む方が少なくありません。列車にひかれる可能性はもちろんのこと、誘導障害が発生する可能性もゼロではないのです。ですから、素人がむやみに電線や鉄塔には近寄らないようにしましょう。